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2021/02号

姫路藩幕末シリーズ(7)　番外編「燃えよ剣」のロケ地、亀山本徳寺

（姫路市亀山）

　コロナ禍で延期が続いていた姫路ＦＣの支援作品「燃えよ剣」が、ようやく１０月に公開されることになった。

　岡田准一が幕末史を飾るレジェンドである新選組副長・土方歳三に扮した映画だが、新選組の屯所の設定で撮影が行われたのが亀山本徳寺（姫路市亀山）。播磨における浄土真宗本願寺派の中心寺院で、交易都市として栄えていた英賀（姫路市飾磨区英賀）に、本願寺中興の祖・蓮如上人の側近である空善が開山した英賀本徳寺（英賀御堂）がそのルーツで、羽柴秀吉の播磨攻略によって英賀が解体され、本徳寺も亀山に移されたものである。

　前置きが長くなったが、何という因縁か「燃えよ剣」のロケが行われた本徳寺の本堂こそ、実は新選組ゆかりの建物なのである。慶応元年（１８６５）春、新選組はそれまでの壬生の屯所が手狭になったことを理由に西本願寺の北集会所（しゅうえじょ）に屯所を移すが、一時期新選組の屯所であった北集会所が明治初年に本徳寺に移築され、現在の本堂になったというわけである。

　本堂は桁行１９間（約３４ｍ）、梁間１５間（約２７ｍ）の県下最大の仏堂で、内陣は左右に余間を控え、外陣には２００畳の畳が敷かれ、三方に廊下のように見える広縁と落縁を巡らせている。その北側の柱には新選組の隊士が付けた刀傷が残っているが、あるいは彼らの明日知れぬ身の鬱憤がもたらしたのかもしれない。

　また、本堂の南に行くと蓮如上人の木像を安置している中宗堂（蓮如堂）があり、映画「本能寺ホテル」にも登場したが、本堂から中宗堂に至る途中の落縁から眺める渡り廊下や中宗堂の佇まいには心惹かれるものがある。

　反対に本堂から北へ、これも趣のある橋廊を渡って行くと大広間に出る。対面所とも呼ばれる公的な対面・接客の場で、１８畳の上段と１１２畳もある下段に分かたれており、上段の格天井には作家の五木寛之氏も絶賛した美しい天井画が描かれている。また、上段の奥には姫路城主の接応などに用いられたという、天井に金箔が貼り、違棚や付書院などを備えた書院造りの上上段が設えてある。上段に主君が座り、下段に家臣が控えるといった時代物に欠かせないシーンにぴったりのロケーションで、これまでにも映画「関ケ原」などに用いられている。

　大広間の後部に建つ表書院も味わいがある。襖で４室に仕切られ、奥に上段の間、上上段の間があるのだが、襖を開け放って進んで行くと思いもかけない奥行きが生まれ、思わず感嘆の声が漏れる。隣接する畳敷きの廊下にも趣があり、歪みのあるレトロなガラス窓から本堂や庭園を眺める構図には、時代物に捉われない面白さがあるだろう。

　大広間の広縁からは庭園や、英賀時代の遺構で、見張り台の役目をしていたという城郭の隅櫓にも似た太鼓楼を望むこともできる。