メールマガジン

2020/07号

工場地帯を流れるダーティーな貌を持つ「川」という名の排水路

（姫路市広畑区・飾磨区）

　「川」と聞いて、どんなイメージが浮かぶだろう？　上流部の瀬音を響かせながら岩を砕いて流れる落ちる川だろうか？　中流部の緑豊かな田園風景に寄り添いながらゆったりと流れる川だろうか？　それとも下流部の真新しいマンションや工場群を左右に見ながら海に下っていく川だろうか？　いずれにせよ美しく、親しみやすいというのが川が持つプラスイメージだが、反対に決して美しいとは感じず、場合によっては人に不快感を与える川もある。

　その１例が、前回のメルマガで紹介した汐入川と同様、昭和１２年（１９３７）に始まった日本製鉄広畑製鉄所（現日本製鉄瀬戸内製鉄所広畑地区）の建設に伴う土地区画整理事業によって敷設された、今は「広畑川」と呼ばれている工場北側の排水路である。

　建設が進められた当時に、工場の北側に広がっていた水田地帯の用排水を図るために設けられた排水路で、水田が見られなくなった今は、東の夢前川と西の汐入川の間を結んで工場の製品や資材を船で運ぶ「運河」のようにしか見えない。

　運河といっても観光名所の小樽運河などと違って、水の流れすら感じられない茶褐色に淀んだ水、川の中に足を踏ん張る感じで存在感を示している高圧電線の鉄塔、南側の製鉄所の色のくすんだ工場建屋や縦横に走るパイプライン、どこか緑そのものが色あせた感じの散策路などが続く北側の緑地帯……。殺伐としたというか、殺風景というか、余韻に乏しいというか、「川イコール美しい、清らか」というイメージの対極にある「ダーティーな貌を持つ川」が厳然と存在しているのである。

　これだと確かに観光スポットになり得ないが、ロケ地としてはなかなか面白いものがある。川の北側にところどころにベンチや東屋が設置され、川を覗き込むように続いていく散策路もあり、地元住民にはお叱りを受けるかもしれないが、暴行や恐喝、殺人や死体遺棄など、サスペンスや刑事物などの忌まわしい舞台には打ってつけの場所のような気がするのである。

　この広畑川、東に向かうと、雪彦山の麓に源を発して播磨灘に注ぐ夢前川と合流して途切れるが、夢前川を渡ると、同じように工場地帯の北側に東西に続く飾磨区の今在家排水路につながっていく。こちらも広畑川と同様、南側は彩りが失われた工場地帯で、北側は産廃関係の企業などが立地しており、行きかう人の姿もなく、会うのは大型トラックばかり。排水路自体の水質も流れも、広畑川よりもさらに淀んでおり、腐臭こそ感じないものの、ところどころにペットボトルなどが浮かんでおり、アンダーグランドな色合いは広畑川よりも強いものがある。こちらもサスペンスや刑事物の舞台にぴったりである。