メールマガジン

2019/07号

映画「引っ越し大名」・松平直矩ゆかりの地(4)　百丈山臨済寺

（姫路市夢前町新庄）

　幕府によって生涯７度もの国替え（引っ越し）を余儀なくされた姫路藩主・松平直矩をモデルにした今年８月公開の映画「引っ越し大名！」。星野源、高橋一生、高畑充希ら豪華メンバーが出演していることでも話題を呼んでいるが、旧姫路藩領に残る「直矩ゆかりの地」も今回が４回目。紹介するのは姫路市夢前町の静かな山間（やまあい）に佇む臨済宗妙心寺派の臨済寺である。

　臨済寺は南北朝時代の康暦元年（１３７９）に播磨・備前・美作３ヵ国の守護だった赤松義則（赤松円心則村の孫）が京より別峯大珠円光国師を招いて開山した古刹で、隆盛を誇ったが戦国時代に兵火にかかって衰退。その後、寛文７年（１６６７）に姫路藩主となった直矩が延宝３年（１６７５）に家老の根村源兵衛に命じて再建し、直矩の旧領国である山形の太龍寺より霊応紹泉和尚を招いて中興したと伝えられている。

　寺には直矩の念持仏や円光国師の墓、赤松義則の供養塔、直矩の二人の息女の位牌と五輪塔、建築奉行を務めた根村家の供養塔など、貴重な文化財も残るが、ロケ地としての魅力はやはり歴史ある茅葺き屋根の本堂や庭園、それらを包み込む山間ならではの豊かな自然だといえる。

　天井や床、壁や建具などは建て替えられているが、本堂の間取りや骨格は直矩が建築を命じた当時のままだそうで、柱や梁にも古色の跡が色濃い。本尊仏や位牌が安置されている仏殿の欄間には直矩の出自でもある結城家（直矩の祖父が徳川家康の次男の結城秀康）の右三つ巴の家紋や、赤松家の二つ引両の家紋が彫りこまれており、歴史ある寺院や武家屋敷の仏殿や仏間として捉えることもできる。

　仏殿に隣接する庫裏の座敷も味わい深い。書院造風のあしらいで、床の間には戦国時代の妙心寺派の僧侶快川和尚の有名な言葉「心頭滅却すれば火も亦た涼し」をしたためた掛軸がかかり、付書院の障子越しには裏山を背に静かに佇む美しい庭園を望むことができる。まさしく奥座敷の風情なのである。

　本堂以外にも撮影スポットはたくさんある。境内には四国八十八ヶ所の本尊が本堂を囲むように祀られているのだが、それらを巡る道も山中の街道として時代劇に使えるし、裏山の赤松義則や根村家の供養塔がある一画は、たとえば仇討に赴く武士が墓前に頭を垂れるシーンなどをイメージすることができる。

　山門から本堂に至る苔むした石段も魅力的だし、山裾から続く参道の両側にはヒノキやスギの大木がそびえ、その合間に青々としたモミジの葉が顔を覗かせている。紅葉の頃はさぞ美しいに違いなく、アスファルトの道だが土舗装すれば武士や商人などが行きかう峠道に変身させることができるだろう。