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2010/05号
江戸時代の大庄屋の暮らしぶりが偲べる旧三木家住宅
(姫路市林田町)
江戸時代を通じて林田藩1万石の大庄屋を務めた旧三木家住宅の一般公開がいよいよ7月から始まる予定である。姫路市が平成10年から約10年間に及ぶ保存修理工事を行ってきたもので、三木家に残る建物の絵図の中から文化14年(1817)の絵図をもとに、棟や柱なども建築当時の古材を可能な限り残して復元している。三木家は天正8年(1580)に羽柴秀吉によって滅ぼされた英賀城主三木氏にゆかりのある旧家で、英賀城が落城した際、一族のひとりが林田に帰農したと伝えられている。
屋敷地は1266坪(約4200〓)。周囲を白漆喰の土塀で囲み、敷地内には県指定文化財である主屋、長屋門、長屋、米蔵、内蔵、新蔵があるほか、南西角に周囲の山を借景にした美しい園池が広がっている。
映像的にはまず、矩形をなす土塀と長屋門が目を引く。特に上部を白漆喰で塗り固めた長屋門は入母屋造り・本瓦葺き、桁行15間、梁行2.5間もある豪壮な建物で、腰板や門扉も古材をそのまま使っているので武家屋敷の長屋門と捉えることもできる。
門扉の脇の木戸から中に入ると、広い前庭が広がり、すぐ目の前に瓦葺きの小屋根、茅葺きの大屋根、瓦葺きの庇を重ねた主屋。圧倒的な存在感を醸し出しているが、なにせ復元されたばかり。外観を覆うどの材も新しく、オープンセットのような印象を免れない。カメラが間近に迫ると雨樋なども今風で、ここは例えば手前に「水戸のご隠居」一行を立たせ、建物は遠景で処理せざるを得ないかも知れない。
3つの蔵を配した建物の背後からも同様で、「新しさ」が出てしまい、あと5年もたてば…と思ってしまう。園池も同様で、アングルを絞れば江戸期の大庄屋の庭園の趣が出るが、カメラを引いてしまうと周囲の民家の屋根が映り込んでしまう。
このように外観的には多少キツイかも知れないが、建物内部は江戸時代の大庄屋の暮らしを充分に再現できる。大戸から入ったところの、おくどさんが設えられた広い土間。漏れてくる淡い陽射しの中に太い梁が架かっている。
左手の居室部分もそのまま使える。黒い板敷きの表台所や裏台所。藩主を迎える式台の付いた玄関の間。障子越しに園池が眺められる赤いべんがら壁の十畳の間。土間や台所で忙しく立ち働く女衆たちやお殿様をもてなす当主の姿が目に浮かぶようである。
白漆喰で塗り固め、三重に扉を施した内蔵や新蔵も古材を用いて復元されており、時代の重みをしっかりと伝えている。
江戸時代以降に幾度か増改築や改修の手が入った建物だが、随所に江戸期の大庄屋屋敷の佇まいが偲べ、伝統的な日本家屋ならではの光と影が織りなす陰影の美も捨てがたい。かつての城下町でもあった林田には藩校敬業館を初め古い家並みや古社なども残っており、併せてロケハンされることをお勧めしたい。