【ディープな姫路城】7月号「天守の防煙」
姫路市城郭研究室・工藤茂博さんによる、姫路城にまつわる知れば知るほど面白いお話を月1回で連載。
第3回目となる7月号では、「天守の防煙」について驚きのお話をお届けします。
INDEX
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- 天守の防煙
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天守の防煙
法隆寺金堂壁画が焼失したのは、昭和24年1月26日でした。その惨事をきっかけに、毎年1月26日が文化財防火デーとなりました。姫路城でもこの日には消防訓練を行います。勿論、煙炎の探知機、放水銃、消火栓、スプリンクラー、監視カメラなどの防災設備を更新し、日頃から細心の注意を払っています。
それでも金閣寺のように放火されれば、姫路城も木造なので手の施しようがありません。とくに歴史的建造物である場合、防災設備を重装備にすると建物の歴史的価値を損なう恐れがあるので、その能力も限りがあるものになるのでなおさらです。そうした状況でも、開城時間に火災が発生すれば、城内にいる多くの観覧者の人命を守らねばならないという難題にも直面しています。
そこで、火災発生時の観覧者の動きや滞留、そして建物内での煙炎の流れや広がり方、それを基にした避難誘導をシュミレーションしておくことが、難題解決の一助になるだろうと考え、観覧者の集中する天守について調査をしたことがあります。調査は天守の1/25で実験用模型を作り、その中で灯油や発煙片、電熱器を火源に使って各所で発火させ、データを取りました。その調査ではまず、垂(た)れ壁(かべ)が煙の流動を抑制することが再確認されました。垂れ壁とは鴨居(かもい)の上にある小壁で、入側廊(いりがわろう)と内室をわける間仕切り装置の一種です(写真1)。
《写真1》
高温の煙は上昇して天井にそって流動するので、梁や桁から垂直に下がる壁によって流れが阻害されることが確認できました。こうした機能をもつ設備は、防煙壁として基準に応じて現代建築には設置が義務付けられています。そして二つは、低層階が火元の場合、階段配置が煙炎の上階への進入を遅らせるのに有効だったことです。現代の高層建築には階段室があります。階段室は、火災発生時に煙や炎の通り道になるので、現代では各階の階段開口部に防火扉を設けるようにしています。
《図1》
《図2》
天守も高層建築ですが、階段室はありません。それでも図1の1階平面を見ると、階段は互いに入側廊の離れた位置に開口していて、地階で火災が発生したとしても、そこから2階へ煙炎が直に上昇しない配置になっています。2階は図2のように、1階と異なり階段口は近接していますが、点線部分の板戸を閉じれば遮煙効果が得られます。また、1・2階とも大きな窓を開放すれば排煙もでき、建物内での煙の流動は抑えられると想定されます。
《写真2》
こうしてみると、階段口に付属する引戸や蓋(写真2)は敵の侵入を防ぐための仕掛けと一般的に説明されてきましたが、防火扉の機能も期待されていたのではないでしょうか。城にとって、敵は人間だけとは限らないのですから。
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